ブラックコーヒー【小説再掲】(500文字程度)
数秒前の意気込みが嘘のように、彼女はみるみる顔をしかめていく。手に持っているのは僕と同じ、一杯三百円のブラックコーヒー。
「えーと…… 無理はしないでね?」
彼女は幼少期、コーラと誤飲して以来コーヒーが苦手らしい。それなのに彼女はあろうことかこの喫茶店で、僕と同じコーヒーを注文した。他にソフトドリンクや紅茶も揃っているというのに。
『誤飲したのは子供の時だから、さすがに今は飲めるようになってるよー!』なんて笑っていた数分前が、もはや懐かしい。
自分のお気に入りのお店を、付き合いたての彼女にも知ってほしくて誘ったけれど、この店のファーストインプレッションを舌に受けてそんな顔をされては、何だか申し訳なくなってしまう。
「いや、飲む…… 君がこれをお気に入りだって言うなら、私飲むよ。もっと君の好みとか、知りたいもん」
そんな嬉しいことを言いながら、「でもすぐには無理だって私の舌が告げてるから、お砂糖入れるね」と、彼女はスティックシュガーを注ぐ。一口飲んで、もう一本注ぐ。それを何度も繰り返すことで、使用済みの袋が一つの山を形成した。彼女の顔は、なかなか落ち着いたものにならない。
飲み物の嗜好ぐらい違っていてもいいとは思うけれど、そんな彼女をたまらなく愛おしく思うのもまた、事実だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※この作品はSS名刺メーカー( https://sscard.monokakitools.net/index.html )で作成した文章をTwitter( @angro_i_do )上にアップし、それを加筆・修正したものです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみに実話を基にしたフィクションです。