投げるのが下手【小説再掲】(500文字程度)
「おつかれさま」
俺がグラウンド脇に設置されている水道の下に頭を突っ込み、炎天下の中行われた体育終わりの汗を流していると、隣のクラスの彼女がそう言って、缶ジュースを下手で投げてきた。俺は頭上に手を構える。
しかしその缶は俺の手を大きく上回った。ベゴン、という鈍い音が俺の背後で鳴る。
「……投げるのが下手なくせに、そういうのやるなよ」
あはは、と苦笑いする彼女をよそに俺は身を翻し、落ちた缶を拾いに行く。水道で表面を軽く洗い流し、プルタブを開けて中身を口に入れた。五臓六腑に染み渡るぜ。
「まあ、それはともかく…… 教室からグラウンド見てたけど、かっこよかったよ」
「……うっせ」
俺はハイペースでジュースを飲み干す。喉の渇きを潤すことと、照れ隠しをすること、二つの狙いがあった。
カラになった缶を、近場にあったゴミ箱に下手で投げた。
コントロール重視で下から投げたものの、しかし空き缶はゴミ箱を大きく外れる。コンクリートで舗装された道に落ちたことで、カラン、という音が一層強調された。
「走るのは速くても、投げるのは下手なんだね」
そんなことを言った彼女を睨みつけ、俺はゴール地点から外れた空き缶を拾い、ゴミ箱に直接捨てた。
投げるのが下手。
どうせなら、もっとロマンチックな共通点を持ちたかったものである。
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※この作品はSS名刺メーカー( https://sscard.monokakitools.net/index.html )で作成した文章をTwitter( @angro_i_do )上にアップし、それを加筆・修正したものです。