踏切、踏ん切れず【小説再掲】(500文字程度)
下校中、隣で並んで踏切待ちをしている彼がおもむろに「あーあ、もうすぐ夏休みだな」と呟いた。そうだね、と私は相槌を打つ。
「高校生にとっての一大イベントの時期によー、恋人がいねえってのもどうなのかねー。お前もそう思うだろ?」
彼からのそのフリに、私は酷く同意した。こんな私にもこの夏、たくさんの時間を共に過ごしたい相手がいる。
今まさに、私の隣に。
遠くから電車が迫る音が聞こえる。私はタイミングを見計らって、思い切って口を開いた。
「それ、なら」
ゴォォ、という大きな音が私たちを包む。すぐ目の前を通った電車の風圧でなびく髪を押さえる。少しの間を置いて、踏切の遮断桿が上がった。
「相変わらず長えよな、ここの踏切…… そういえば今、何か言おうとしたか?」
彼からの問いかけに、なんでもないよ、と答える。そっか、と彼は言って、踏切の向こう側へ歩みを進める。私もそれに続く。
電車が通った時の騒音をバックに流した今だって、勢いに任せることが出来た今にだって言いたいことも言えない自分が嫌になる。
いつまで経っても踏ん切りが付かない自分に腹が立つ。
私の勇気の前に立ち塞がる遮断桿は、もうしばらくの間、上がってくれそうにない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※この作品はSS名刺メーカー( https://sscard.monokakitools.net/index.html )で作成した文章をTwitter( @angro_i_do )上にアップし、それを加筆・修正したものです。